全世界接近戦㉝


 

 ※※※

 

 元87部隊の二人の電池切れを起こす前にと、小紋は自治区潜入の機会をうかがっていた。

地図データによると、この目の前の山の地形自体が、第807自治区だということだよ」

 小紋は、バッテリー切れ寸前のタブレットを片手に、87部隊の二人に説明を始めた。

「なるほど。ここは、以前に自衛隊のフェイズ・ファイター航空部隊の基地があった場所……」

「それを有効活用して形成された自治区なのですね?」

 山野をくり抜き、直線の長いトンネルを築くことで形成された以前の第807フェイズファイター基地は、以前は航空自衛隊の最先端として、その存在価値を認められていた場所だった。

 しかし、今となってはエネルギー不足や電力不足を余儀なくされ、スミルノフ一派の推し進める核融合情報装置に手を出さざるを得なくなり、現在に至る。

「もともと、ここに住んでいる人たちは、航空自衛隊きってのエリートパイロットや技術士官が集まる場所だったみたい」

 小紋が言うや、

「ええ、なるほど。それは以前に、鳴子沢さまが抵抗組織で指揮を執られていた頃に得られた情報というわけですわね?」

 シグレバナが呼応する。

「ならば、気を引き締めませんといけませんわね。つまり、今までの自治区の住人とは一線を画した人々が、ここに待ち受けているということですからね」

 カレンバナも、右腕の具合を確かめながら言葉をつないだ。

 相変わらず、標高の高い場所なだけに冷え込みが厳しい。

 一面に雪が積もっているわけではないが、黒い岩肌の急斜面のところどころが薄っすらと白く染まっている。

「ここはお宝の山だからね。出来ることなら、アレももらって来られるといいんだけど……」



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