全世界接近戦㉖
「どうだ、大丈夫か? どこか、身体は痛まないか?」
「う、うん……」
小紋は、防寒が利いた布製の大袋に抱き抱えられていた。
「すまねえな。俺の天候の読みがはずれちまったんだ。こんなのいきなりじゃ、きつかっただろ?」
「え、あ、う、ううん……」
その時、小紋はそれどころではなかった。この猛吹雪の中なのに、彼女は耳まで真っ赤にして大汗を滴らせる。
「どうしたよ、小紋? 熱でも出ちまったのか?」
「ち、違う、違うよ、羽間さん……。ていうか、なんて言うか」
「ああ、心配すんな。俺の方は大丈夫だ。こういうのは結構慣れてるからな」
正太郎は小紋を抱きかかえながら、吹き荒れる氷嵐の脅威から身を守っている。
「痛くない? 羽間さん……」
「ああ、なんてことねえさ、このぐらい。この世界じゃいつものことだ」
彼はそう言うが、ビー玉ほどの氷のつぶてが雨あられのように吹き付けるたびに、厚手の防寒布が太鼓を鳴らしたように激しい音を奏でる。
彼女の人生の中で、こうやって父親以外の男に抱きかかえられるのは初めての経験である。それがまさか、このような場面でやって来るなどとは夢にも思わなかった。
小紋は、87部隊の二人の温もりを感じながら、あのヴェルデムンドでの出来事を思い出していた。
羽間正太郎の鍛錬はとても厳しいものであったが、それでも彼女がそれを堪え切れたのは、ひとえに師匠である羽間正太郎の包容力があっての賜物である。
(羽間さん、僕は絶対に負けないよ。絶対に絶対に負けないよ……)
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