全世界接近戦③


「はい、その通りですね……」

 シグレバナはうつむいて、それ以上何も答えなかった。

 小紋も、それ以上何も問い掛けようとはしなかった。


 ※※※


「ふうむ……。それで、これから何を私にさせようというのだね?」

 一部始終をモニターでうかがっていたスミルノフは、久しぶりのシルクハットの大男の訪問に、大きな意図を感じていた。

「フフッ、それは以前にも申しました通り、あなたの望む世界の構築です。ワタシは単に、そのお手伝いをするのみです」

 シルクハットの大男の目は、ハットの大きなの部分で隠れている。

 だがスミルノフは、その陰の奥に不敵な意図を感じざるを得ない。

「私がここまで来られたのも、何より君のお陰だ。それは感謝する。脳を同時進行で七つ、そして自由自在に肉体をコントロール出来るのも、全ては君が提示してくれた技術によって賄われている。さて、これからはどうしたら良いものか……」

 スミルノフは、わざとらしく大男に問い掛ける。

「フフッ、スミルノフ殿。それはあなたらしくもな言い様ですな? 何も考えなくして、野心家たるあなたが、ここまで事を進めるはずがない」

「そう思うかね? 始めは、あなたに提示された技術を売りさばいて金を儲けるだけしか考えていなかった。それを、ここまでけし掛けたのは、氏素性も名乗らないあなたの方からなのだ」

 誰が考えても、このシルクハットの大男の存在は怪しい。

 自らの名も名乗らず、どこに所属する、何の信念や意図があるかも語らずに、ただこの男はかの最先端技術だけを無償で提示して来たのだ。

「フフッ、ここまでやっておいて、随分気弱ないいようですな、スミルノフ殿? ワタシの方は、大いに怪しんでいただいて結構です。それであなたのお気が済むのでしたら。しかし、それを操るのもあなた次第です。その技術テクノロジーを託されたあなた次第なのです」


 



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