災厄の降臨㊻


 おそらくは、かの寄留地に住まう人々全てが、島崎の同朋ではないのだろう。

 それが証拠に、彼らは寄留地の人々の前で、なぜヴェルシュ種の木がここに植えられているのかの理由を知らぬ存ぜぬで突き通していた。

 だが、あの金属より硬い木の伐採を、デュバラ・デフーに懇願したのは島崎一団の要望である。

 さすがのデュバラ・デフーですら、かの木の伐採には類まれな能力と集中力が必要である。

 それをどこで知ったのかは不明だが、彼らはそれをデュバラにさせることによって、思う存分彼の体力を奪ったのだ。

 そこでいきなりの情報核融合自治区への襲来が起こる。

 情報核融合自治区の崩壊は、かくも飼いならされた凶獣の群れによって無駄なく速やかに実行されたのだ――。

「間違いありません。この強襲と言い、かの自治区の崩壊は、島崎様たちの画策によって起こされたのです。そしてこれは、彼らが起こした新しい私刑リンチなのです」


 ※※※


「これでやっと、積年の恨みつらみが晴れるというものですな、島崎運営長……。いや、島崎司令官」

 弁当箱ほどの小さなモニターをのぞき込みながら、桜庭はしたり顔で言った。

 受けて、着崩した作業着姿の島崎は、その白髪まじりのボサボサ髪をぼりぼりと搔きむしりながら、

「いいや、これでは私の積年の恨みは済まされんよ。なあ、そうだとは思わんかね? 桜庭技術中尉。我々の尊大なる意思は、あの戦乱で、あのいかがわしい娘たちの前に朽ち敗れていったのだ。我々の大切な部下たち命と共にな……」

「ですな……。彼女らは、今でも美しすぎる悪魔そのものです」

「あの戦乱で散って行った私の娘も、生きていればあの年ごろだ……」

 寄留地の運営本部の中は、紫煙で充満していた。

 寄留地お手製の細身の葉巻きの火が指元に近づいてきたとき、建付けの悪いドアノブがガシャリと回った。

「やあ、ご盛況ですな、お二人とも」

 

 



 

 

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