災厄の降臨㉟

「な、なにを言っているの、カレンバナ!? あの戦乱の頃ならいざ知らず、身共はもう、そのようなことは致しておりませんよ!!」

「え、それって? ということは……?」

「そうです。シグレバナの十八番は、なにを隠そう敵士官に対する毒盛り暗殺術だったのです」

「え、え、ええっ!?」

「もうっ、カレンバナのいじわる! 何も知らない鳴子沢さまに、そのようなことを!!」

「うふふ、冗談よ、冗談。あなたの料理が美味しすぎるのがいけないのよ、シグレバナ? でも、この腕前でどれくらい殿方の心を奪って来たのかしら?」

「もうやめてってば、カレンバナ! 鳴子沢さまが、本当におびえてしまいますわ!!」

「あは、あは、あはははは……」 

「な、鳴子沢さま!! そんなお顔で身共をご覧にならないでくださいまし。今のカレンバナが口にしたのは遠い記憶からの昔話です! い、いえ、カレンバナの戯れ言に御座います!! こんなそこはかとない作り話は、この川の流れに免じて全てをお流しになってくださいまし! これ以上、身共をいじめないでくださいまし!」

「あら、シグレバナ? それは作り話ではなくて、あなたの武勇伝ではなかったのかしら?」

「も、もうっ、カレンバナ!! なにを言っているの!? 鳴子沢さま、これはみんな本当にカレンバナの戯れ言で御座いますよ? 本当に!!」

「あは……あはははは」

 このような他愛ない思い出話を糧に、頬が落ちるほどの美味を堪能する彼女たちである。底冷えのする晩秋の谷底ではあるが、そこに終始笑顔が絶えることはなかった。それはまるで、これまでの任務を忘れるほどの和やかなひと時であった。

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