災厄の降臨㉞


 そこまで口にしたのだが、小紋には、二人にとても言い出せない彼女なりの憶測があった。

(やっぱりそうだよ……。これはきっと、あの人たちの仕業しわざに違いないよ……)


 預けられた偵察用のカメラに、思う存分の状況を映し終えた三人は、一度、自分たちが暮らす寄留地に戻る算段でキャンプを張ることにした。

 そこは険しい山と山が向き合う大きな川が流れる岩場で、彼女たちが寝床にするには、おあつらえ向きの場所であった。

「鳴子沢さま。ここなら、いくら忌々しく飛び回る凶獣とは言えど、容易に身共らを襲って来ることはありませぬ」

 さすがは、あの世界で戦闘経験が豊富なカレンバナである。凶獣を素手で倒すスキルはなくとも、生き残る上での戦術は折り紙付きである。

「そうですね、カレンバナ。ここなら、身共のセンサー能力を広範囲にしなくとも、高低差を利用して感知することが出来ますからね」

「それに、身共らにも考えがありますゆえ……」

 シグレバナも、カレンバナには負けず劣らずの手際の良さである。

 彼女らは顔を見合わせると、小紋一人置いてテントから出て行き、何やら大仰な準備をし始めるのであった。

 もし万が一、凶獣の襲来を受けたとしても、この谷あいの地形なら川の上流と下流の両方を重点的にサーチすれば戦略が立てやすい。二人は、その地形を利用した仕掛けを細工し始めたのだ。

 

 日が落ちてきたころには仕掛けの作業を終え、三人で焚火を囲んでの夕食となった。

 なにしろ、シグレバナが作る携帯食を応用した料理は絶品であり、幼少の頃よりお嬢様育ちの小紋の舌ですら容易にうならせる。

「うーん、すごい美味しいよ、シグレバナさん!! これ、どうやって作ったの!? どうしてシャケの缶詰や鹿の干し肉が、こんなに美味しいリゾットやステーキなんかに化けちゃうわけ? もしかして、シグレバナさんって、お料理の天才!? それとも魔法使いかお料理の神様の化身なの!?」 

「そうなのですよ、鳴子沢さま。ここにいるシグレバナは本当に魔女なのです!! 彼女は魔女なだけに、このお料理には怪しい毒を入れて御座いますよ?」

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