災厄の降臨⑯


「どうするもこうするもねえ。ただ、あいつら相手に近接武器だけで渡り合えるようにならなければ、俺の弟子にするこたあ出来ねえ。それだけだ」

 そう言われて小紋は目をひん剥いて見開き、

「そんなこと、普通出来ないでしょ……」

 と、ぶつぶつ文句を垂れながら、枝の上で超振動スティックを振りかざす正太郎を見つめた。

 それからというもの、彼女はお付きのアンドロイドのマリダの見守る中、羽間正太郎との一対一での激しい特訓に明け暮れた。

「そうじゃねえ! そうじゃねえんだ、小紋!! ヴェロンは凶獣と言ってもだな、中身は薄っすら知能を持っただけの、かなり本能的で獰猛な植物なんだ!! だかよう、目や耳で追っかけてるだけじゃ間に合わねえんだ!!」

 正太郎が身体を真っ二つにしたヴェロンの亡骸を足元にし、侵入角度からの対応を事細かにレクチャーする。

 だが、小紋には今ひとつ彼の言う言葉の意味が理解出来ない。

 なぜなら、彼の師匠であるゲネック・アルサンダールをして、

「羽間正太郎は、天賦の感覚の持ち主なのだ」

 とまで周囲に言わしめられたほどであったからだ。つまり、それは常人の感覚では理解し難いことを示している。

 よって、彼の見ている世界と小紋自身に見えている世界とでは、同じものを見つめていても全く違うものなのだ。

 彼女は、言葉でそれを理屈では理解しているつもりだが、

「はい、羽間さん……。もう一度。もう一度やってみます!!」

「よし、その意気だ。必ず俺がお前をフォローする。だから、ぜってえお前を死なせることはしねえ。それが分かるまでやり続けるんだ。良いな?」

「はい!!」

 勢いで返事をしたはいいが、その時の小紋は内心焦りで一杯になっていた。

(こんなの、身体能力とかの以前の問題だよ……)

 少なからずとも、彼女は武術や体術の経験がある。ゆえに、動体視力や反射神経にもそれなりの自信があった。

 だが、これはもはや、その域を超えた問題なのである。なにせ相手はこの世界の最強の生物、凶獣ヴェロンなのだ。その俊敏さや力強さ、獰猛さや生物的本能的殺傷能力などは、我々人類のはかり知るところではない。

 そんなものを、超振動デュアルスティック一本で胴体を真っ二つにしてしまう目の前の男の能力。

 この男は、もうすでに人間と言う範疇を軽く超えてしまっている――。


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