スミルノフの野望㊲


 現在の地球での人類の対立軸は、あの核融合情報装置によって隔てられた〝塀の中の面々〟――つまり、偏重な思想を意図的に植え付けられた〝急進化ミックス〟と、相対性ウィルスの作用によって浮遊戦艦に捨てられてしまった〝急進化人類ラディカリエンス〟とで構成されていた。

 塀の中の面々であった〝急進化ミックス〟らは、機械的な生産力とフューザー・アルケミスト社が流す意図的な情報操作によって、これまでにない強烈な排斥作戦を実行している。

 その思想と理念は、弱体した世界各国の中枢機構にまで浸透し、この世界人類の半数以上の同意を獲得していた。

 そして、その対立位置にある元成人の赤子――〝急進化人類〟の面々は、相対性ウィルスの作用によって、これまで人間として生活していた頃の記憶こそ奪われていたものの、新たなる〝人類〟としての急進化を遂げ、さらには通常弾薬などではびくともしない甲殻を有した頑強な身体を手に入れたことで、〝急進化ミックス〟らの度重なる攻撃すら脅威としなかった。

 それゆえ、全世界中で巻き起こる不毛なる戦いによって海は荒れ、大地は荒廃し、もはや地球上に安らぎを感じられる場所は人の気配のしない極一部となってしまったのだ。

 それでも、それらに干渉しない人々の集落が所々に散見される。その集落を彼らは〝寄留地〟などと呼んだが、それこそが彼ら過去にヴェルデムンドに渡航した経験を持つ人々なのである。

「我らが、この寄留地を建設して、あれから早半年以上が経ってしまったな。ここは、あの核融合情報自自区同士の手が及ぶ半径二十キロメートルのちょうど間と間に位置する場所だ。つまり、文字通り〝束の間〟の楽園と言うわけだな」

 額に汗を滴らせながら、デュバラは建設資材となる木材を肩に担ぎながら言うのである。



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