スミルノフの野望㉟


 小紋とデュバラは、その後無事合流したが、もうクリスティーナ奪還どころの話ではなくなっていた。

「これでは、我々人類が予測出来得る限りの最終段階への轍を踏んでいるようではないか。己のして来たことを棚に上げて言うのもなんだが、人類が人類の元の形を失ってしまえば、たとえそれが生き残ったとしても、到底種の保存とは言えぬ……」

 デュバラは、自らを悔いていた。人が人のそれであることを忘れ、彼は人類で最初の融合種ハイブリッダーの完成形となった。

 しかし、それがゆえに彼は悩んだ。そして、大いに悩んだ末に、彼は最愛の伴侶であるクリスティーナに、その遺伝子を託したのだ。

「デュバラさん。あんまりそのことで思いつめない方が良いよ。それはクリスさんだって同意の上だったんでしょ? あれから僕もクリスさんと何度も話し合ったけど、クリスさんは生まれて来る赤ちゃんがどんな形で生まれて来ても、デュバラさんとの間に出来た子供だったら、無条件で愛せる自信があるって言ってたもの」

 言われて、デュバラは無言でうなずく。さらに小紋は続け、

「それにね。もし、遺伝子が異種間同士として認識したとしたらね、おおよそ自然受精する確率は皆無に等しいんだって。難しいことはよく分かんないけど、どうやら精子と卵子の表面にあるお互いの〝鍵〟となる部分が合わないらしいんだ……。つ、つまりね。デュバラさんは、遺伝子的にはまだ人間ということなんだよ」

 懸命な小紋の説明に対し、

「ああ、すまぬな小紋殿。余計な気遣いをさせてしまって」

 言ってデュバラは虚無の笑みを浮かべる。そして、

「しかし、奴らが理由は、この私にも分からなくない話なのだ。その深層の部分は誰もが持っている。だが、その心の闇の部分を利用し、この状態を招いた連中を私は許せんのだ」



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