スミルノフの野望㉖


 デュバラは、どうあっても自らの作戦を決行しようと、意を決して成人の赤子の彼らの眼前に姿を現すが、

「ううむ、奴らめ。全く私に反応を示さぬ……。やはり、この中身を気取られたか!?」

 デュバラは、自らの浅はかさを悔いた。そして、以前より危惧していたことが現実となっていることを知った。彼らは、あまりにも欲に忠実であるため、その〝母性〟にすら相当に敏感だったのだ。デュバラの女装は愚策だったのだ。

「やはりそうか……。彼らは、本能で感じ取っているのだ。ゆえに、このような見てくれには騙されんと言うわけだ。これはすぐさま小紋殿と作戦を練り直す必要がある」

 彼は、自らの胸に手を置き、苦虫を嚙み潰した。

 しかし、どうやら理由はそれだけではなかった。

 彼が、あきらめ加減にその場から踵を返そうとした、その時である。

 ふいっ――

 何者かが、彼の背後から何かを投げつけて来る音があった。

 刹那、デュバラはそれに気づき、

「なに奴!?」

 とばかり、そこから身をかわして反転をするが、

「や……!!」

 その投擲された残像は、一条の光を伴い先の林の大木に深々と突き刺さった。

「あ、あれは……!? あの武器は、もしかして戦乱中に使用された白兵強襲用の……」

 それは間違いなく、あのヴェルデムンドの戦乱時に使用された超振動長槍シャルア・パイクである。一投にして、軽々と直径一メートルをも超す大木を貫通させてしまう。この威力こそが何よりの証左である。

「ということは、これは……」

 デュバラの予測は的を射ていた。案の定、その長槍が突き刺された大木の向こう側から、どさりと倒れ込んで来る人の姿があった。

 憐れ、その長槍が柄に繋がれた超軽量の長鎖によって引き抜かれると、人影は破壊された噴水のように無造作に鮮血を吹き出させる。

「ぐ、くう……。どういうことだ!? 何ゆえ……何ゆえ、こんな禁断の武器が今ここに!?」


 

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