スミルノフの野望㉕


 驚いたことに、塀の中から数え切れぬほどの人々が飛び出して来た。それはまるで、突如何の前触れもなく大型の貯水ダムが決壊したようだった。

 しかも、それらは皆一様に長槍を片手に持ち、半笑いの不気味な仮面をかぶり、絹のように滑らかな白色の装束を身にまとっている。その一種異様な集団は、ざっと数えても、おおよそ五百人は下らない。

「何事なの!? 一体何が始まるって言うの!?」

 小紋は慌てて茂みの奥に身を隠した。あんな集団に姿をさらけ出そうものなら、何をされるか分かったものではない。

 その異様な白装束らは、まるで何かに憑りつかれた様に正面ばかりをうかがっていた。目出しのみの仮面の奥からは、やたら鈍い眼光だけが目立つ。

 小紋は、そこでハッとした。

「ま、まさか! この先は、成人の赤子たちの集積所がある場所だ! この人たちは、そこに向かっているのかもしれない!!」

 そう。とうとう、この時がやって来てしまったのだ。今や、塀の中の人々にとって天敵と化した〝成人の赤子〟と、直接的な武力を行使しようとしているのだ!

「そんな……!? なんてタイミングなんだよう!! これじゃあ、端末を奪うどころの話なんかじゃないよう!!」

 津波のように大きな流れを成した白装束の軍隊は、ざくざくと規律整った軍靴を鳴らしつつ森の中へと消えて行く。

 その間、小紋は何とか要塞と化した塀の中へと潜入を試みようとしたが、数名からなる自動小銃を抱えた門番の存在を確認するや、

「これじゃあ、僕一人の力じゃ無理か……」

 ぼそりと言葉を吐いて、静かにきびすを返す。

 それよりも小紋には心配事があった。〝成人の赤子〟の集積所へと向かったデュバラの存在である。

「この短期間のうちに、塀の中の人たちはあんな風にされちゃったんだ……。これを仕掛けた連中は、最初からこういうことが狙いだったのかも」


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