スミルノフの野望⑭
混沌とした世界に、やがて静寂が到来した。無論、それはスミルノフによって作り出された偽りの静寂である。
スミルノフと協力したフューザー・アルケミスト社の戦略は功を奏し、その小型核融合炉と情報発信装置を一体にさせた施設は、瞬く間に世界中を席巻した。
それによって、それを敷設された各自治区の人々は、狭い空間から自由に出入りすることを許されず、より閉鎖的で、より近視眼的な情報のみを信じ込まざるを得なくなった。
それによって、いつの間にか自分たちは、他の集団よりも偉大であり、選ばれた人間であるという偽りの思想を、より強固な土台として生きて行くのである。
「我々は、この混沌とした時代を生き残った選ばれた人民なのだ」
「我々は、運命的に神に選ばれし民なのだ」
「我々は、遺伝子レベルで優位性があったからこそ、こうして生き残ることが出来たのだ」
「よって、この世に要らない〝モノ〟は排除せよ」
「一度、地球に絶望し、浮遊戦艦に寝返った〝モノ〟は、もう人間とは呼べない」
「よって、我々はをこの時間をもって、〝モノ〟である彼らを排除する」
塀の中の人々は、こぞってこういった考えを持つようになっていた。
そこに、何の根拠もない。何の倫理観も無ければ、何の正当性も持たない。
ただ、そこにあるのは、彼らにとって都合の良い理屈が並びたてられているだけだった。
「とうとう、こんな日がやって来ちゃったんだね。まだ、僕らはクリスさんすら取り戻せていないのに」
「仕方がない。一度植え付けられてしまった思考は、そう簡単に崩せるものではない。まして、ここまで閉鎖的な空間での選民思想ともなると……」
デュバラは、ついかつての山間の村で起きたテロ集団の鎮圧案件を思い出す。それも、鎮圧とは名ばかりで、事実上は関係各位の全ての始末であった。
「あの時は、それが上からの命令だったのだ。世界は、あの村の存在がはじめからなかったことにしたのだ……」
「デュバラさん……」
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