スミルノフの野望⑦


 それからの道中、様々な山村や地方の街を通り抜けようとしても、以前と同じ繰り返しだった。

 それらの集落は規模は違えど、はるかに続く金網やコンクリート塀などで囲いを作り、屈強な男どもや警備型のアンドロイドなどで番人を張り、それらの出入り口には政府が発行した身分証明カードによって虹彩認証や静脈認証が行われる。

「これじゃ、まるで砦だね。一体、何を守るための施設なんだか」

 足止めを食らった小紋らは、砦の枠外にある窪地にキャンプを張った。電力も情報も届かぬ枠外では、完全な野宿をするしか方法がない。

「ううむ……。私は元々がこの国の人間ではないが、この国がこのように様変わりした姿はみたくないものだな」

「ん? それ、どういうこと?」

 小紋が、非常用の火で炙ったパンにかぶりつきながら問う。

「うむ。この国……そなたや、我が細君であるクリスの育ったこの国は、数年前までは世界で一番治安のよい国とされて来た。だが、こうやって互いの往来を隔て、壁を作り、情報までをも細分化させてしまえば、やがて人々は疑心暗鬼となり、その塀の中に限定された井の中の蛙ともなろう」

「それってもしかして、みんながお互いのことを信じ合わなくなっちゃうってこと?」

「その通りだ。人の信用や信頼は、その経験によって形成される。過去に他人を信用して騙された経験、過去に他人を信用して目的が達成された経験、そんな経験の積み重ねによって、人はその相手が信用に足る人物なのかという経験則を得るのだ。だが、その枠を小さく限定された中に住み続ければ、その経験則は、より小さなものとなる。よって、結果的に愚鈍な考えで行動することになる」

「うん、なるほど。じゃあさ、デュバラさん。この施設の壁は、やっぱり意図的に作られたってこと?」

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