スミルノフの野望⑤


 ※※※


 ちょうどその頃、その事件は、小紋らが岐阜の中央部にある、とある山村を通り抜けるころに起きた。

「ここから通れないって、どういうことなんですか!?」

 小紋は、各自治区域ごとに設けられた関門の前で大声を張り上げた。

「そう言われましてもねえ、お嬢ちゃん。つい先日から、こういう決まりなんですよ」

「決まり? 決まりって、どういうことですか!? これじゃあまるで、江戸時代の関所みたいじゃない!? それに、僕はお嬢ちゃんじゃない!!」

 小型核融合炉を有した情報発信装置を誘致したそれぞれの自治体は、やがてその秘密保持とセキュリティーを名目に、専用のID登録をしない者を完全に制限した。

 それゆえに、小紋ら一行は目的の地への進行を妨げられ、何度も迂回する羽目になった。

「もう、やんなっちゃう!! これで何度目!? 狭い日本なんて言葉があるけれど、これじゃあ、いつになったってクリスさんの所になんかたどり着けないよ!!」

 オツのラウンドビークルに戻り、憤慨に憤慨を重なる小紋。彼女は腕組みをしながら、どっかりとソファーに腰を下ろす。

「ううむ、困ったものだな。まさか、今話題の小型核融合炉がこんなにも早急に設置されるとは。しかも、ここまで厳格な規則や制限までもが用意周到となると……」

 さすがのデュバラですら眉をひそめる。

「そんなの決まってるじゃないですか、デュバラさん。あんまりこういう言い方はしたくないけど、今回のは誰かの筋書き通りなんですよ! 陰謀とかそういうのじゃなくって」

 小紋はむくれっ面になって語気を強めながら、

「昔、羽間さんが言ってました。こういうのは、商売人的な戦略なんだって。世間では、やれ陰謀とか何とかの闇だとか騒ぎ立てる人たちがいるけれど、ビジネスを目論む連中からすれば常套手段なんだって!!」



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