驚天動地の呪い㊵


 小紋らの考えはこうだった。

 あの山間の村に突如降ろされたカプセルの人々は、みな一様に小紋の胸を目掛けて襲ってきた。それはまさしく、〝赤子返り〟した人々の母の乳を求むる衝動から来る行為である。

 そして、今回の竜子たちの〝死ねない病〟に関して言えば、彼女たちはみんな、

「死にたくない」

 と言った生への衝動が事実として表現されてしまった症例である。

 だが、二つの症例を鑑みると、とても皮肉な結果を招いてしまっている。

「あのカプセルに閉じ込められた連中は、元々はこの地球の環境に絶望し、自らが志願して浮遊戦艦に囚われてしまった人々がほとんどだ。つまり、彼らは元から自分の道を自分で切り開くことをあきらめてしまった連中だったとみてよい」

「うーん……。そのデュバラさんの見解が的を射ているのだとすると、今回のウィルスは、ある意味その人たちの願いを叶えてしまったという見方も出来るってわけだね」

「ああ。考えを止めてしまうのならば、赤子に戻るのが一番だからな」

「じゃあ、竜子さんたちは?」

「そのままだ。死にたくないという願望が、そのまま死ねない身体になったというだけ」

「そ、そんなのひどいよう!! だって、痛みで苦しんでるときのそのままの状態に戻っちゃうなんてさ!」

「そうカッカするな、小紋殿。そればかりは、私相手にムキになってもどうなる話ではない」

「ごめんなさい。でも……」

「気持ちは分かる。だが、これが現実なのだ。全てはそう自分たちの考えに都合よく出来てはおらんのだ。今回のウィルスは、そういったものなのだと考えるのが妥当だということだ」

 デュバラの分析には説得力があった。

 以前流行したヴェルデムンドウィルスの症状は、これ一様におたふく風邪のようなリンパが途轍もなく腫れ上がってしまうものであった。

 つまりは、その時節に感染してしまった人々の脳裏には、〝ヒューマンチューニング手術〟に対する何らかの劣等感が蔓延っていたと考えてよい。

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