驚天動地の呪い㉞


 小紋はデュバラの言う通りにし、窓辺に置かれたロッキングチェアに座り込むと、

「じゃあ、お願いします。デュバラさん」

「ああ、しっかり掴まっていてくれ。案内を頼む」

 デュバラは空中庭園に戻るや否や、再び融合種ハイブリッダーに姿を変えた。そして、小紋が座ったロッキングチェアを抱え上げ、勢いよく羽根を広げて飛び立った。

 今宵の空は雲一つなく、実に空気が澄み切っている。しかし新月がゆえ、どこか視界に乏しい。

 小紋は、久しく空を飛んでいなかった。共にクリスティーナが居た頃は、こうしてデュバラの飛翔能力にあやかって三人で作戦遂行を何度も果たすこともあった。

 だが、当のクリスティーナが〝二分の一のサムライ〟にさらわれてしまってからというものは、こうして生身の身体で空を駆ける機会に恵まれなかったのだ。

「デュバラさん、右だよ右。そこから仰角三十度上に上昇して」

 小紋は、チェアに座りながら、デュバラの胸の辺りに指をなぞって指示を出す。これは、かつてデュバラとクリスティーナの間で行っていたやり取りである。

 融合種ハイブリッダーに変身したデュバラは、この暗がりではまったく視界が利かない。それどころか、聴覚のほとんども常時閉ざされている。

 夜間の融合種は、血の匂いに過剰なほど敏感になり、さらに血液に含まれた成分のみが淡い光となって視界にほんのり見えて来るだけのだ。

 そこで編み出された触覚による誘導。小紋は、彼ら夫婦の間で交わされていたこの技を傍で見ていたため、ごく自然にその規則性を覚えてしまったというわけである。

「さあ、もう少しで一階の正面玄関に辿り着くよ。誰にも見つからないようにゆっくりと降りて行ってね」

 小紋が言いながら合図を送ると、デュバラもそれに応え周囲に目立たぬように羽根をゆったりと押し広げた。すると、

「な、なに!? なにあれ!?」

 小紋が金切り声寸前に階下にあるものを指さした。

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