偽りの平穏、そして混沌㊿
浮遊戦艦が、絶望を見た人々を集め出して早二年が経つ。
電力供給すらままならない時代に突入したことを覚った〝ミックス〟たちに、地上の生活は、実に不自由だった。
かと言えば、生身の肉体を保持していた〝ネイチャー〟ですら、これまでの文明的な生活が出来ないことを覚らざるを得ない。ゆえに彼らも、自ら超科学力を誇る浮遊戦艦に取り込まれて行かざるを得なかったのだ。
「僕たちが、いくら頑張って浮遊戦艦に抵抗したところで、本当はこの地球のみんなに生きる気力が無ければ意味なんてないんだよね……」
人々は、自ら飲み込まれて行ったのだ。あの偽りの楽園を
この家のリビングには、家主の家族の集合写真が飾られていた。風化によって、それぞれの顔の部分ぼやけてしまったが、きっとこの写真が撮られた瞬間は、間違いなく幸せの真っただ中だったのだろう。
彼女は感慨にふけり、どこに居るのかも分からない父大膳や兄春馬のことを思い出していた。
そして、あたかも姉妹のように時を重ねたマリダの面影に郷愁を抱いた。
さらに、
「羽間さん……。羽間さん、あなたは、この瞬間でもどこかで戦っているんだよね? 今でも、誰かのために全力で貫き通しているんだよね? ねえ、早く会いたいよ。羽間さん……」
言うに及ばず、彼女は師である羽間正太郎に、師弟関係以上の強い感情を抱いている。しかし、だからと言って、その彼が今どこで何をやっているのかすら皆目見当もつかない状態なのだ。
そんな折である――。
ひと気のないこの辺りから、何やら声が聞こえて来た。
「なに、猫……? それとも犬? でも、この声は……」
人間のような声であった。いや、声と言うよりも、それは赤ん坊の泣き声に近い。
次章へ続く
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます