偽りの平穏、そして混沌㉖


 小紋は、四方から投げつけられる投げ苦無から身を守るために、大木の陰にじっと身を潜めて機をうかがっていた。

(いくらなんだって、この僕の実力では七体を同時に相手出来るわけがない。なら……)

 彼女は、自らの思い描いたイメージに納得が行くと、意を決しそこから矢のように飛び出した。

 案の定、飛び出した瞬間にすかさず投げ苦無が放り込まれる。

 相変わらず投げ苦無は、倫理や道徳などものともしない速度で投げつけられるが、彼女はそれをすんでのところでかわしつつ、別の大木を利用して身を潜める。

(あぶない、あぶない……。あれだけ投擲ポイントを狭めてもこれだもん。やっぱり相手には、七つ以上の目があるって証拠だね)

 思いつつも、彼女は目を細めてほくそ笑んだ。これならば突破できない状況ではない、と――。

 上がり掛けていた息を一旦落ち着かせると、彼女は再び大木の陰から這い出し、

「はあっ!!」

 電磁トンファーを振り回しながら草原を駆け出した。

 四方八方から乱れ飛んでくる刃先。縦横無尽に駆け巡る小紋。

 それは、不規則な幾何学模様の軌道を描いたようなものだったが、彼女にはそれ相応の考えがあった。

(相手が同じ癖を持った七つの一卵性双生児だったら、どんなに七つの頭があったって……!!)

 考えることが一緒なら個性は一つ。

 個性がばらけていれば、彼女は苦労もしただろう。だが、その予想は結果を伴い、

「やあっ!!」

 不規則に走り抜けていたと見せかけていたと思いきや、小紋の電磁トンファーが一体の〝ドール〟の首筋を捉えたのだ。

「たあっ!!」

 電磁トンファーの白色に光る突端が、か細い〝ドール〟の頸椎の辺りにめり込んだ時、

「ギャアアアア……!!」

 おそらくは悲鳴ではないものの、それにも似た電子回路の焼け付く破砕音が辺り一帯に響き渡る。


 


 

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