偽りの平穏、そして混沌⑯


「ああ、そのぐらい一目見ればわかるってもんだぜ、小紋。それよりもお前って、生粋の自然派ネイチャーだったんだってなあ。お前の親父さんから事情は聞いたぜ? なんで俺と一緒だった時に、それを言ってくれなかったんだ? そうしたら……」

「そうしたら、何?」

「そうしたらよ……。いや、何でもねえよ。なあ小紋。これからも精進しろよ。そしてまた、どこかで会おうぜ。そん時ァ、俺がもっとお前を鍛え抜いてやるよ。それまでは、絶対に死んだりなんかするんじゃねえぞ。これは俺とお前との二人の間の絶対の約束だからな!!」

「うん!!」

 彼女の他愛ない妄想の一部のやり取りである。だが、それでも小紋は、それが現実にこれから語り合うであろう、自らの師との会話であると確信していた。

(僕にとって羽間さんの存在は……)

 小紋が次に草むらの中から拾い上げた武器は、電磁トンファーだった。彼女お得意の武器である。

 しかし、四方八方から来る投げ苦無の攻撃に対し、状況をひっくり返せるほどの威力は持ち合わせていない。

(スミルノフ中尉が言っていた武器の入ったトランクの中身を、僕は全く理解出来ていない。だって、何が入っていたかなんて教えてくれないんだもの。だけど、これでは……)

 投擲武器に対して、近接武器では決定打を打ち放つことは出来ない。まして、電磁トンファーとは、小柄な小紋の体格と攻撃力を補うために会得した武器なのだ。これは有効ではない。

 この間にも、投げ苦無の雨あられは続いている。まだ、自然界のように空から降って来るだけなら話は分かる。だが、この投げ苦無は天からも正面からも、時には斜め下からも執拗にのだ。

(本当に厄介だよ、この敵は……。投擲ポイントは狭めたつもりだけど、それでも広範囲なんだもの。このトンファーで出来ることと言ったら、飛んできた物を弾いてぐらいしか……)


 ※※※



 

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