偽りの平穏、そして混沌⑫


 火が点き始めるとともに、ラウンドビークルの旋回力は増した。

「コノ状態デハ、火の車デス!! ニッチモサッチモドウにも、ブルドーザーデス!!」

「な、何わけわかんないこと言ってんの!? 防弾装備してるようなキミの車体なんだから、この程度の炎でどうにかなっちゃうわけないでしょ!! ほら、もっとしっかり回って!!」

「ヒイィィッ!!」

 大型トレーラー並みの巨大な物体が、その場でぐるぐると旋回を起こすと、足もとから燃え盛る炎が旋回する強風に煽られて、まるで豪快なねずみ花火のように辺り一帯に火の粉をまき散らすのである。

 言い出しっぺの小紋とて、この激しい遠心力に涼しい顔でいられなかった。脳が揺さぶられ、身体の節々にきしみが走り、五臓六腑がぺしゃんこになりそうなほど押しつぶされる。

 しかし彼女は、それでも好機をうかがっていた。ひとえに、この一連の動作はそのためにあった。

「ワタクシ、コレ以上回ると壊れてしまいマス!! 誰かハヤクコレを止めテェェ!!」

 人工知能が音を上げても、小紋はじっと耐えた。たとえどんなに装甲が厚く作られていようとも、車内の温度が急激に変化してきた、その時、

「今だ!!」

 彼女は勢いよく扉を蹴って車外へとダイブした。

 炎のリングに包まれた車体は、彼女の小柄な体を容易に炎の外周へと吹き飛ばした。

 吹き飛ばされた身体は二転、三転しながらだだ広い草原の草根のクッションに包まれる。

「何とかなった……。でも、これからだよ」

 焼け焦げた収監服をぱっぱと薙ぎ払うと、小紋は草原の周囲を取り囲む木々の間に飛び込んだ。

「あった、先ずはこれから……!!」

 言って彼女は落ちていた小型バズーカを手にし、それを反対側の森に照準を合わせ、

「これが羽間流、盤上をひっくり返してやる大作戦!!」

 小紋は大声を張り上げて引き金を引いた。


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