第十九章【偽りの平穏、そして混沌】
偽りの平穏、そして混沌①
※※※
「監察対象、甲九〇六――鳴子沢小紋。これから、あなたは特別高等病棟に移ることになります。ここからも今まで通り、あなたの経過観察は続きますが、その観察当事者は我々〝シンクバイユアセルフ〟であることはに変わりありません」
とある出撃において、味方の機体に大きなダメージを負わせてしまった鳴子沢小紋は、組織内の規定によりリーダーの座を更迭され、半ば犯罪人同然の監察対象となった。
手錠や拘束衣の類いは施されなかったものの、今現在の状況を知らしめる外界の情報は一切伝えられていない。
「はい、分かりました。エリス軍曹。これまでの行き届いた何から何までのお世話、本当にありがとうございました」
小紋は深々と頭を下げて、青い目をした色白の女性下士官に感謝の意を告げる。
「いいえ、私としてはお名残り惜しい限りです、鳴小沢リーダー……いえ、ミス鳴小沢。あなたは我が組織シンクバイユアセルフの憧れの的でした。そんなあなたの身の回りのお世話が出来ただけでも、私は本当に光栄でありました」
あの悲惨な一件以来、小紋は特別高等女性収容所と位置付けられた場所に収監されていた。
かと言って、彼女が決して不当な扱いを受けていたわけではない。それどころか、前線で指揮していた頃よりもストレスも疲労も感じさせない外界とは隔絶された場所に身を置いていたのだ。彼女は、この数か月の間、そこに居心地の良さすら感じていた。それは、事実上の幽閉に近かった。
「ここだけの話なのですが、ミス鳴小沢」
「はい」
声を掛けられ、小紋が振り返ると、
「これまでのここでの待遇は、前線で指揮を執られているシュミッター元大佐を始めとした方々のお力あってのことなのです。そしてあの方たちが我が組織の中枢部へと陳情を行った結果なのです。たしかにあの事件は痛ましいものでしたが、それでもあなたにとって悪いことばかりではなかったと私は信じています」
エリス軍曹は、再度敬礼をし直した。そして、小紋を次の収容所へと優しい笑顔で送り出した。
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