偽りのシステム255


 たった数時間前までは、ここもまるで南米のカーニバルのような賑やかさがあった。そんな坑道内も、現在は顔を知るものだけで執り行われる小さな通夜のように、ひどくどんよりと静まり返っている。

 時は残酷であった。あれだけ栄華を誇った第十八特殊任務大隊ですら、今や誰一人として命を残している者はいない。

 そして皮肉なことに、あれだけ正太郎を思い慕い、彼にいの一番に会いたがっていたアイシャ・アルサンダールに至っては、彼と一言も言葉を交わすことなく、再び銀の玉の中へと閉じこもってしまうに至ったのだ。

「また二人っきりになっちまったな、エナ」

「うん……」

 そうは言うが、正太郎は生身の本体を取り戻した。それだけに、電脳世界の住人であるエナにとっては、一人取り残された感は否めない。

「そう寂しい顔すんなって。俺たちゃ、いつでも会えるんだろう?」

「そうなんだけど……」

「そうなんだけど、なんだよ?」

「うん。そうなんだけど、ね。あたし、ついさっきまで、新しい仲間が出来て、これから先もずっと、この先ずっとずっと一緒に冒険が出来るのだと期待しちゃってた……」

「ああ、そういうことか。うん、そりゃあまあ……」

 エナの表情から察するに、その言葉は嘘偽りない感情が表立っている。これもきっと、アイシャとの邂逅があっての賜物だと思える節があった。これまでのエナ・リックバルトは、より深い位置の感情を自ら無意識に押し留めてしまう癖があった。それが今はまるで感じられない。

「ねえ、ショウタロウ・ハザマ。これからどうするの? 自分の身体を取り戻したからには、あなたのことだから、何か目的があるんでしょう?」

「ああ。だいたい二年のブランクが出来ちまったからな。だからよ、この身体を一旦鍛え直さなきゃならねえ。いくら液体付けになってたからって、何らかのほころびはあるだろうからな。そして次に……」

「そして次に?」

「そしてその次には、俺の相棒、烈の野郎を探し出す」

「烈太郎君を!?」



 ※※※



 偽りのシステム《完》


 次章へと続く



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