偽りのシステム249


 アイシャは呆気に取られていた。全く望まぬ力のやりどころに困り果ててしまった。

 どうやら、途中での修正は利かぬようである。自分が掲げた当初の望みが、自らの身体から発する何らかの作用によって、唐突に人々を動かしてしまうようなのだ。

(これは、影響などという生易しい言葉では済まされません。わたくしが強く望んだことが、直接周囲の人々に反映されてしまうなんて、なんということ……)

 心清らかなアイシャであるゆえ、父ゲネック・アルサンダールもこの力を彼女に引き継がせたかったのかもしれない。

 もしこれが、野心家たる長男のアヴェルであったなら、今現在の世界勢力図も絶望的なものに変わっていたに違いない。

(中尉は、この力を女王蜂の影響力だと言いました……。蜂の集団は、これほどまでに女王の望みを頑なに決行するとでも言うのでしょうか? これがアルサンダール家の隠された力だとても言うのでしょうか……)

 何はなくとも、それが現実の世界で表現されてしまっていることに、アイシャは戸惑いを覚えた。

 どうせ命令を聞いてくれるのであれば、もっと臨機応変に自由であって欲しい。それが今の彼女の切なる望みである。しかし、まだこれならば、第十八特殊任務大隊に搭載された〝統率システム〟の方が百倍マシなような気がした。

 目を覆いたくなるような激しい体当たりの光景に、アイシャは半ば気を失いかけていた。これが、自分の望む目的のためなのだと思えば思うほど、大津波が通った後の名もなき鉄柱のように、心がひしゃげ折れ曲がって再起不能になってしまいそうである。

「姫、アイシャ姫。計算では、あと二十回ほどの爆発が出来れば、この穴は完全に貫通します」

「う、うう……」

 あと二十回の爆発と言うと、あと二十人の命が失われるということである。これを平然と言ってのけるエスロッサも凄いが、これを強制的に受け入れなければならない自分も大概のものだ、とアイシャは思う。

「見えてきましたぞ、姫!! 向こう側の光が漏れて見えます!!」

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