偽りのシステム248


 エスタロッサの号令と共に、残り百五十機ほどの機体が、一斉に障壁に向かって砲撃を敢行する。

 いかに硬質素材たるハイセレニウム特殊合金であっても、これだけの熱量の集中砲火を浴びせられれば、その中心から熱崩壊を起こす。

「狙撃止めい!! 順次、先行部隊は再び突撃を敢行し、壁の抜こう側に機体が通れるだけのトンネルを作るのだ」

 どこに彼らの真意があるのかは分からない。だが、その一機一機の動きを見るや、誰も嫌な顔一つせず、激しく赤熱した障壁に機体を張りつかせる。すると、

「いけません! そんな所に行ってしまっては……」

 アイシャが叫んだと同時だった。先行した部隊の機体は異様な刺激臭とともに真っ赤になって猛爆発を引き起こすのである。

 その爆発があった後も、またその火の海の中に次の機体が入り込み、同じような臭いが生じたと同時に眩い光となって壁に大穴を開けて行く。

「姫、アイシャ姫。たった今計算したところ、この様子ならば、あと三十秒もすれば目的の場所へとたどり着けます。ご安心なさってください」

「安心って、エスタロッサ中尉!! わたくしは、こんなことを望んだつもりはありません!」

「いいえ、アイシャ姫。女王蜂たるあなた様が、当初に望んだ目的は、この寄留地跡を完全に残したいというものであったはず。我々は、その期待に応えるべく行動を起こしているだけなのです」

 アイシャは愕然とした。そして自らの力に血の気が引いた。

 彼女は少し前まで、ただアルサンダール家の類まれな戦闘力の感覚センスだけを引き継いだのだと勘違いしていた。しかし、このような恐ろしい力までも手に入れてしまったことに、つらい憤りを覚えずにはいられなかった。

「あなた様は、この世界の女王蜂になられるお方なのです。その女王蜂に従うのは、我ら戦闘蜂の宿命なのです」



 

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