偽りのシステム232


 緊急回線の相手は、エリケンだった。

「どうした、エスタ坊や? 敵地でこの緊急回線を使用するということは、敵に自分の丸裸をさらけ出してしまうようなものだぞ?」

 彼女の補助脳スクリーンに登場したエリケンは、少しほくそ笑み加減だった。

「どういうことなのです、大佐殿!? 私に何の恨みがあって……!?」

 エスタロッサは、彼の高慢ちきな態度に逆上気味に攻め寄るが、

「おやおや、エスタ坊や。どういうことだ? いつも冷静沈着で押し通しているお前らしくもない」

「どうしたもこうしたもありません! 私の七個中隊の戦力値データが、全て改竄かいざんされているではありませんか!?」

「何のことだ、エスタ坊や? 俺はお前が指揮する中隊のデータなど改竄した覚えなどないよ。自分の指揮の不甲斐なさを棚に上げて、上官に罪を擦り付けるのはよした方が良い」

「し、しかし!! 隊の適正コンペティションで仕上げたデータと、現在の事実上のデータとでは落差があり過ぎます!! 我が隊の最終データ承認を行ったのは、大佐殿ではありませんか!?」

「さあね。俺はこの通り将校とはいっても所詮は中間管理職の身だ。寄せ集めの兵のデータ承認ばかりに気を取られているのが仕事ではないのでね」

「そ、それでは……それでは、お聞きいたします!! この地に至っての大佐殿の損害状況はいかがなものなのでしょうか!?」

「ふうむ、それが気になるかい、エスタ坊や? では教えやろう。我がエリケンが指揮する八個中隊の現在の被害状況は……至って皆無だ」

「なっ……皆無ですと!?」 

「そうだ。正直に皆無なのだから仕方がない。当然、道すがらのヴェロンの強襲があったにせよ、それは被害を被るに及ばん。それに……」

「それに……?」

「それに、我が八個中隊は、それ以外の敵と遭遇した実績がない」

「な、なんですと!?」


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