偽りのシステム226


 スパリ――

 生物感情兵器ファッキンの身体は縦半分に真っ二つになった。それは、息もつかせぬほど瞬く間の出来事であった。

 そんな刹那の出来事に、

「え……!?」

 エナの反応が遅れた。呼吸を三度するほどの間があった。極めて稀有な状況を当たりにしたせいか、天才少女とまで世間を言わしめたエナ・リックバルトですら、この現実の認識をするのに十秒の間を要した。

 無残にも血だるまになった死体が左右に転がっていた。あの醜い原形を留めたままだが、そのむくろにそこまで悪意に満ちた形相は読み取れない。ただそこにあるのは、数十秒前までこの空間を絶対支配していたネガティブな生き物の残りカスであった。

「あ、あの……。アイシャさん」

 ようやく現実を受け入れられたエナが、遠慮気味に声をかける。

「はい、エナさん。わたくしどうやら……」

「ええ、みなまで言わなくても理解出来るわ。これがアイシャさん自身の行くべき道だと言いたいのね」

 言われてアイシャは、言葉なくうなづいた。

「考えてみれば、あたしの考えが甘かったのかもね。アイシャさんの役割は、もっと純粋というか、何と言うか、そういうものだと思っていた……」

 エナがそう言うと、アイシャが首を振って、

「わたくし、さっきの戦闘の最中さなか、お父様に会ってきました」

「お父様? それは前頭首のゲネック・アルサンダールさんのこと?」

「ええ。お父様はわたくしの中でこう仰いました。アイシャよ、道を誤るな、と……」

「道を誤るなということは、それはあなたのお兄さんのことでもある……」

「そうなんだと思います。そして、こうしてフィヨードル上等兵のように、平気で他人を傷つけることを厭わぬ存在を、この世に生かしておいてはならない、と……」


 ※※※



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