偽りのシステム224


 アイシャには分かっていた。この男――いや、この化け物の皮をかぶった女の中身が、真の捕食者あることを。

 捕食者は、根っからの捕食者である。その生命維持の根底に、他人の美しさ優しさを奪い、時にはそれを利用しようとする。たとえそれが微力な美しさであったとしても、類まれに備わった感覚センサーによって重箱の隅から見つけ出し、それを捕食することで精神的な満足を得ようとするのだ。

 ファッキンという、男とも女とも言い難い存在には、自分自身がどちらであるのかという自覚が性質上まだ不完全である場合がある。ゆえに、自己の確立さえもが不完全なのである。

 それゆえに、自らが生きているということ自体の感覚が不完全で、それを他人に依存しなければならなかったというわけだ。

「だから、この人は、自分以外の人を捕食しようとするのです。自分に無いものを取り入れようとするために……」

 アイシャがエナに語り掛ける。

「なるほど、そういうことよね、アイシャさん。この男に際限がないのは、まるで金の亡者の行く末と同じなのね。ただお金をかき集めるだけかき集めて、その向こう側に何も見出せない人たち。そんなことをしたって、自分の理想にはいつまでたっても届かないって、なぜわからないのかしら?」

 エナは、再び渋面を作り、生物感情兵器に目をやる。

ゆがんでしまったのです。行くべき道を見誤ったのです。わたくしたち人類が努めるべきところは、そこではないはずなのに……」

 言って、アイシャはおもむろに胸の前で手を合わせた。次第に、その手のひらの間から太陽のコロナにも似たまばゆい閃光が漏れ出してくる。

「アイシャさん、それは何!? 一体何をする気!?」

 エナが目をむいて問い掛けたが、アイシャは押し黙ったまま何も答えなかった。

 さらに手の間から閃光が漏れ出し、それが三メートルほどの円を描いたかと思うと、

「目には目を歯には歯を。仏の顔も三度と昔から人は言います。わたくしはここで、浄化などという生易しい言葉は申しません。行き過ぎたうみは完全にこの世界から排除するのみです」

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