偽りのシステム215


「ファッキン上等兵!! あなたの力はその程度ではないはずです!! あなたの憎しみはその程度で防ぎきれるものではないはずです!!」

 どこからか女の声が聞こえて来た。通信回線を通してであった。その声はとても凛としている。でありながらも、どこか感情を逆なでるような劇的な意思が伝わって来る。

「中尉、エスタロッサ中尉! この女は化け物でごぜえやす!! どうか、ご慈悲を!! どうか、帰還命令を……!!」

 声の主は、あの女中尉だった。

「それはなりません、ファッキン上等兵!! 何が慈悲ですか、たわけたことを!! あなたはそれでも〝十八番おはこ〟の大隊の兵ですか!? 十八番の大隊に慈悲などという概念は一切存在しません!! 私があなたをこの大隊の隊員の一人として選んだ理由をお忘れか!?」

 ファッキン上等兵は一瞬黙りこくった。そして、くぐもった声で、

「あたしは、この世界を滅ぼしたいと言った……」

「それはなぜです!?」

「わたしの考えが、まったく自分の思い通りにならなかったからでごぜえます……」

「ならば、どうすれば良いと思いますか?」

「美しい女は全て殺しやす……。美しい物は全て破壊しやす……。美しい心には全て泥を塗るでごぜえます……」

「あなたは今、それが出来ていますか?」

「これまではそれが出来ました。ですが今は……」

「ですが、ですが今は何ですか? あなたはここでそれを止めてしまうのですか? 簡単に止めてしまうのですか?」

「は、はえ……。し、しかし、あの女は本物の化け物でごぜえます。決してあたしごときの化け物には……」

「ええい、弱音や言いわけなど聞きたくはありません!! あなたは、自分を化け物だと自負していたから、こうして目の飛び出るほど高額な機体の一兵士になり上がれたのではありませんか? 化け物なら化け物らしく、最後まで本当の化け物として死をまっとうしなさい!!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る