偽りのシステム201


 言ってエスタロッサは、七十二番機の集中意識プログラムを解除し、フィスキー・フィヨードル上等兵の意識を解放した。

 すると数秒後に、

「ありがてえで御座いますよ、エスタの姐さん。こんなあたくしでも、役に立てる時が来て……」

 エスタロッサの意識モニターに突如映し出されたのは、細長い逆三角形の顔をした薄汚い男の姿である。左右のいびつな目の位置に、ぼんやりとしか開いていない薄気味悪いまぶた。口はへの字に折れ曲がり、口角までもがいびつに地の底を這いずっている。

 そんな彼独特の不気味な容姿に、

「ファ、ファッキン上等兵……いえ、フィヨードル上等兵。本来なら、私はあなたのような存在を解放するつもりはありませんでした。あなたと少しでも面と向かって関わっただけでも、こちらの心の芯までもがけがされた気分になってしまいますから。ですが、ここはあなたが出る幕です。ここであなたがあなたとして生まれ出て来た意味が発揮される時なのです。そうです、ここで思う存分に暴れまくるのです」

 言いつつ、エスタロッサは心底嫌がるような渋面を作り、顔を背けるように言葉を吐いた。

「イーッヒッヒ!! こりゃあ、ありがてえですぜ、中尉さん。あんたのその言葉は、背筋が凍るほど気持ちがよござんす。そんなふうに姐さんにののしられるだけで、あたくしゃ股間から湯気が飛び散りまくりそうでやす

 下品な引き笑いをしつつ、白目むき出しに唾を飛ばしまくるファッキン上等兵。

 不快。まさに不快――。

 声を聴いているだkで虫唾が走る。機体の表面にまで鳥肌が立ちそうになる。

(ふむむ……。この男は、生まれながらにして不協和音でしかありません。ですが、普通ならそれで、人生の初期の時点で絶望感すら覚えてしまうものです。それなのにこの男ときたら、まるでそんな自分の置かれた境遇を楽しんでいるかのようです。言うなれば、この男は悪魔。常軌を逸した悪魔そのものと言えるでしょう……)


 ※※※



 

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