偽りのシステム202


 ※※※

 

 エナは、小柄な体躯を身震いさせながら、

「ねえ、聞いた? アイシャさん。あの女中尉、とんでもない奴を仕向けて来たわよ」

「な、なんなんですか、あの人は……。まるで悪意を持ったトロール。想像上の低級の極み……」

 今のアイシャの姿からは表情こそ窺えないが、それでも彼女がかなりの渋面を作っていることが分かる。

「まあ、色々難関が待ち受けていることぐらいは予測してたけど、あちら側が最初っからあんなカードを切って来るなんて意外だったわ」

 そんなエナの素振りを見た時、

「あ、あのっ、エナさん!! ちょっと喜んでません!? 何かウキウキしてません!?」

 アイシャが珍しく息せき切って言葉を荒らげた。

「そ、そんなことはないわよ。あたしだって、あんな見るからにキモイ頭のおかしな男が自分の敵になったら本当に嫌だもの」

「それだったら、わたくし……」

「いいえ、ダメよ。ここはアイシャさんに相手してもらうわ。戦い慣れをしてもらうためにね。そう、これは一対一の戦い。つまり真剣勝負のってわけね。これも良い経験よ」

 アイシャは、促されて次元扉に足を向けた。

 敵はもうこの向こう側まで詰め寄り始めている。通称、ファッキン上等は、急先鋒とし中継施設の位置から他の機体よりも確実に素早い動きで第十五寄留跡地の奥深くまで入り込んできた。

「これは手強いわよ、アイシャさん。あれは確かに只者じゃない……」

 アイシャの頭の中に直接話しかけるエナ。

 アイシャは、融合種ハイブリッダーの実体であるものの、通信インフラの整ったこの施設内なら、エナの力であればこの程度の芸当は出来る。

「わたくしに、本当に出来るのでしょうか。戦いなどというものが……」

「出来るも出来ないもないわ。やらなければやられる。これが、このヴェルデムンド世界のおきてなんだから」


 ※※※

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