偽りのシステム197


 そう、エナの言う通り、エリケンからの通信はエナが仕組んだ全くの偽通信だったのだ。

 エナは、エスタロッサの内面に恐怖を植え付けさせるため、少しでも正常な思考が出来ないようにと、あまりにもらしからぬ動揺を見せたにせのエリケンの声を届けたのである。

 無論、エリケンの八個中隊へ、同様にもエスタロッサがいかにも女性らしい狂気にあえぐ声を送り届けていた。その実績によって、エリケン側にも恐怖を煽り立てることに成功している。

 だが、エリケンの方も同じ時分に同じような経緯によって、この仕掛けに感づいてしまった。これがエナの危惧していた、そんなに上手くいかないという意味の正体であった。

「あたしの予測よりも、だいぶ早く感づいちゃったって感じ? まあ、さすがに悪名高い百戦錬磨の十八番おはこの大隊よね。伊達に身体の半分以上を機械に換えちゃってるわけじゃないってことね。データと実績のリンクの速さが半端ないのよ、あの人たちって。要するに、頭ン中がかなり機械的ってな感じなのね。そこんところ、どう思う、アイシャさん?」

「どう思うって、そんなのわたくしにはまるで分かる道理ではございません。わたくし、エナさんみたいに特に秀でた能力はございませんし……」

「まぁた、アイシャさんたら、謙遜なんかしちゃってえ。そういうのを、かなり昔の例えでカマトトブリッコとか言うのよ」

「カマトトブリッコ……ですか? それはどういう意味なのでしょう?」

「ええと、確かねえ。知っているのに知らないふりしてることだったとおもうのよ。よく知らないけど……」

「そうなんですか? 初めて聞く言葉ですけど、なにか微妙にわたくしのケースとは違うような気もいたしますが……」

「ま、まあ、細かいことはいいじゃない。カマトトアイシャさん? でさ、そんな話は置いといて、次の作戦なんだけどね」

「ええ、なんでしょう?」

「次は、アイシャさんにも手伝ってもらわなくちゃ」

「つ、次は……わたくしの出番なのですね。それは、わたくしに出来ることなのでしょうか?」

「もちろん出来るわよ。だって今のアイシャさんは、おとりには持って来いの姿なんだもん」

「お、囮ですか!? このわたくしが……?」


 ※※※




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