偽りのシステム183


 エリケンの言い様は投げやりそのものだった。しかし、彼の腹の中はどうなのかは分からない。

 とは言え、エスタロッサ自身も、もう後戻りはできなかった。

(あの男をこの世から消し去らなければ、私は女というものを捨て切れない……)

 エスタロッサは、なまじ、正太郎との邂逅かいこうによって、自身が女であったことを呼び戻されてしまっていた。自身の生き物としての土台が女性であることを肉体から取り除けないでいたのだ。

 それゆえ、あのヴェルデムンドの戦乱後、彼女はずっと羽間正太郎という男の影に憑りつかれていたのだ。

(私が、これからの時代を生き抜いていくためには、あの男を何としてもこの世から消し去らなければなりません。これは良い機会なのです。それがどんなむごたらしい作戦内容であったとしても……)

 彼女――エスタロッサ中尉にしろ、その上官であるエリケン大佐にしろ、この大隊に身を置くものは誰一人として彼らの頂点に君臨する総統シュンマッハを慕う者などいない。むしろ彼らは、シュンマッハを人間として見下している。

 しかし、どんなにそれを見下していたとしても、彼らはそんな人の皮をかぶった化け物のような男の庇護が無ければ生きて行けない状況にある。

(ならば、そのようなどうしようもない状況にあろうとも、それを上手く利用すればよいのです。私たち……いえ、私は、そうやって生きて行かねばならないのです)

 エスタロッサ中尉率いる七個中隊は、第十五寄留跡地の周辺を取り囲む標高1500メートル級の山岳地帯の中腹まで辿り着いた。勾配の激しい山岳地帯といえども、ここはヴェルデムンド世界。地球の山岳地帯とはまるで違い、直径五十メートル、高さ二百メートルにも及ぶ巨木が密集し、まるで摩天楼の巨大ビルのようにそびえ立っている。

(ここは、私が幼少のころに育った地球ではありません。もう私はすでに、ヴェルデムンド世界に根付いた一人の別人種ということです!)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る