偽りのシステム120


 兵の半数近くを失ったことは大誤算であったが、エリケンらの当初の目論見からすれば、これは打ってつけであった。

「これなら、反対側のヴェルデムンドアーチから仕掛ける部隊にとって有利になるということだ。あの烈風七型さえ居なければ、ゲッスンの谷の西側はかなり手薄になる。何と言っても、あのヴェルデムンドアーチは、俺たち人間にとって文字通り地獄でしかないからな。どんなにフェイズウォーカーに乗っていたとしても、並の兵士なら、あそこからそう簡単に生きて帰って来られないのだ」

 つまり、羽間正太郎を始めとした、数機のエースパイロットチームが西側に存在しないというだけで、エリケンらの作戦が完遂し易くなるということだ。

 そしてさらに、彼ら十八番の大隊は、ヴェルデムンドアーチを容易に通り抜けられるという確信がある。なにせ、彼らは肉体の半分を機械に換装している。さらに言えば、彼らはもう、人間の原型すら留めていない。戦闘能力に特化した彼らは、あの凶獣らが束で襲いかかって来ても、容易に跳ねのけるだけの実力が備わっているという証しなのだ。

「フフッ、西側から攻め入る部隊は、エスタ坊やに全権を任せている。本来なら、一点突破攻撃の正反対側から攻め入る役目と言えば、敵の攪乱を目的とするものだ。だが、今回だけは少し意味合いが違う。なぜなら、俺たちの身体は、もう人間の能力を軽く凌駕している。ゆえに、拠点に入ってしまいさえすれば、容易に制圧が可能なのだ。奴ならうまくやってくれる。あのエスタ坊やなら……」

 エリケンは言うや、オペレーターに指示を出した。彼ら十五人の将校による本格的な砲撃の開始である。

「この高速機動艇は図体こそでかいが、並のフェイズウォーカーなど相手にならないほどの機動力を有している。俺たちのアルティメットサイバーシステムで何倍にも跳ね上がった機動力さえあれば、な……」


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