偽りのシステム112
「今作戦は、予定通り今夜ゼロ時ゼロゼロ分をもって発動する! 皆の者、よく聞け! 貴様たちに与えられた最終目的は、ここに居る全ての者同士で祝杯を挙げることである!! 貴様たちは、それをよく肝に銘じて各自に与えられた任務をこなすのだ!!」
補助脳を通して、エリケンの野太い声が木霊した。
エスタロッサは、この演説を聞いてさらに覚悟を決めていた。
(現実主義者もはなはだしいお考えの大佐殿が、出撃前にこのような希望的観測を含んだ言い様をなさるなんて……)
ここに居る全ての兵士が理想主義者であったなら、彼らはこの野蛮な世界で身体の半分近く、いやそれ以上の機械の身体への換装を行っていなかったであろう。
これまでに経験したこともない厳しい環境に身体を適応させるためには、過度なヒューマンチューニング手術も止むを得なかったのだと言える。
かえって、ヴェルデムンド新政府の意向に異を唱え、獰猛な肉食系植物がはびこるこの世界で、生身の身体で生き抜いて行こうとする羽間正太郎を始めとしたネイチャーの考え方の方が、実はどうかしているのである。
しかし、そんな彼らを相手に大苦戦を強いられている第十八特殊任務大隊という構図こそが、本来はどうかしているのだ。
(私だって、覚悟を決めてここまで何度も手術を受けて来たんだ。様々なものを捨ててまで……。それなのに、何ゆえにあのような無茶苦茶な考えの連中に人生を狂わされねばならないんだ……)
エスタロッサ中尉は、出撃前の自らの姿を鏡に映して感慨にふけった。それはまさに、人間という尊厳を捨て払った姿であった。
(本当はもう分かっていた。私が一度目にヒューマンチューニング手術を受けた時点で、あの頃の私には戻れないことを……。だけど、そんなことは私だけではなく、ここに居る第十八特殊任務大隊のみんなも理解していたことなんだ。きっと私は……いや、私たちは、あの反乱軍の連中に嫉妬しているんだ……)
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