偽りのシステム111


 十五時間後――。

 エリケンは、作戦通りにゲッスンの谷を回り込み、西側の設営を東側に移設させ陣取っていた。

 おそらく羽間正太郎を始めとしたゲッスンの谷防衛隊は、そのことを予測し、察知していることだろう。

 大抵、一点突破攻撃とは奇襲を狙う力業を伴う作戦である。しかし、敵兵の戦力を緻密に分析したうえで防衛を行う反乱軍側には、そのような奇をてらった攻撃は通用しない。なぜなら、反乱軍側は第十八特殊任務大隊の戦力を足の先から頭のてっぺんまで把握しているからだ。

 それでも一点突破攻撃を行う理由があった。それは、限られた兵力で特攻を仕掛けることにより兵力の分散を防ぎ、防御の弱まった場所から拠点中枢部分を制圧できるからだ。

 無論、一点突破の背後には、第二陣の時間差で仕掛ける部隊も用意している。実は、その第二陣の働き具合で、この作戦の風向きが大きく変わる。

「皆の者、よく聞け!! これより我が隊は、ゲッスンの谷に一点突破の総攻撃を仕掛ける。内容は作戦データ通りだ! 各自、持ち回りの役割を果たせば必ず目標となる場所を制圧することが出来る!! ここに、我らの存在意義を示し、これから迎えるミックスによるミックスの為の指標を指し示すのだ!!」

 エリケンの言葉に対し、兵士たちの気合のこもった雄たけびが広がった。無論、雄たけびが木霊するのは、彼らの補助脳に繋がれた大隊ネットワーク上のである。

 彼らは、一様に人間の姿を捨てていた。彼らは一様に異様ないで立ちで雄たけびを上げていた。

 ある者はケンタウロスさながらの半人半獣のいで立ちで。ある者は、腕に大鷲のような翼をあつらえ、その腹部にはミサイルポッドを携えている。

 そしてある者は、下半身をジェットホバーノズルの付いた三輪の戦闘車両に換装し、またある者は、大きな鎌の付いた両腕に、ムカデのような数え切れぬほどの足の付いた下半身を自在に壁に這わせている。

「これが我らの部隊の戦いの始まりだ。これでどちらが未来の選択肢を勝ち取るのかが決まる……」


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