偽りのシステム94


 エスタロッサ中尉が言葉を発したと同時に、エリケンの脳裏に、斥候として潜行した508部隊と509部隊の戦闘映像が映し込まれる。

 そしてその瞬間、脳裏に送られて来た映像にエリケンは驚愕した。あの肉食系植物が増殖し、闊歩するヴェルデムンドアーチの大森林の中を、数機のフェイズウォーカーが風の如く疾走し、両部隊の機体をことごとく撃破して行く姿を目の当たりにしたからだ。

「ば、馬鹿な!? こいつらは、あの手練れの508部隊の操縦技術すらものともしないのか!?」

 508部隊の使用するフェイズウォーカーは、当時の最新鋭機体〝シルベスター改Ⅱ型〟である。その機体は、他の追随を許さぬほどの機動性に優れ、また白兵戦を大得意とする基本コンセプトによって製作された。言わば特殊任務部隊専用の仕様の機体なのである。

 しかし、敵部隊の四つの影は、さらにその上の機動性を誇ったのだ。

 反乱軍の機体。それはまさに、そのほとんどが寄せ集めの集団である。その内わけは、かつて地球規模の開発競争で試作された機体から、軍の払い下げによって得られたもの。それ以外は、ブローカーなどの違法な取引によって売り払われたものなどが主流となっている。

 そんな中に見慣れぬ機体が存在した。異様な赤い紋様をまとった黒い機体がそれである。その黒い機体は、嫌でもエリケンの目を引いていた。

「何だこいつは!? まるでこちら側の動きを読んで……!!」

 その目に映る映像の主は、508斥候部隊の隊長、ポウラ・ロジェインスキー少尉のものであった。

 ポウラ少尉は、肉体を五割以上機械に変えてしまったほどの、屈強な戦闘マニアであった。それだけに彼は、今までも数々の困難なミッションをクリアして来た手練れの兵士としての認識があった。

 そんな彼が、映像の切れる数秒の間に、

「う、うわあっ……!!」

 まるで見世物小屋で恐怖に怯えた子供のような悲鳴を何度も張り上げている。そして最後の断末魔を聞いた瞬間、戦闘映像が途切れたのであった。そう、それがポウラ少尉がこの世で見た最後の瞬間なのだ。

「ま、まさか、こんなことが……」


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