偽りのシステム81

「ううん、元人間かあ……」

 言われてエナは、むっつりとした表情で首を傾げた。正太郎の言葉した意味がまるで伝わってこない。想像の枠の外に置いて行かれているという感じなのだ。

「ねえ、ショウタロウ・ハザマ。あなた、あたしに何か隠してるんじゃない? その〝十八番おはこ〟と呼ばれる人たちの情報を……」

「何も隠しちゃいねえよ。隠すどころか、俺にだってわからねえことは沢山ある。いくら当時やり合った敵だと言っても、全てを知るこたあ出来ねえんだ。だからなのさ。だから余計に不安になる。あいつらが、あのままのわけがねえって……」

「あのままじゃない?」

 エナはそれを聞いて正太郎の真意を悟った。戦略を組む上で、相手の情報がどれだけのものかを知らなければ、それ相応の対処を考えねばならない。だが、未知の相手ならばことさら不安に不安を重ねるだけなのだ。

「ねえ、見えて来たわ。あの隔離ドームの一室にあなたの身体が置かれているはずよ。早く行ってみましょう」

「お、おい……エナ! あんまり無駄に動き回るな! おっとっと……」

 エナは天真爛漫を装い、無駄に明るく正太郎の腕を引っ張った。互いにホログラミングの肉体だとは言え、現在二人の身体は仮想世界と現実世界の両方にリンクしている。それだけに仮想的な体温と痛みは常時伝わっているのだ。

「ほら、見えて来たわ。あれがアイシャさんの言った目印よ」

 そこには地下空間とは思えぬほどの斜光が差し込んでいた。虹色に輝くステンドグラスのような壁が隔離ドームのど真ん中を遮っていた。

「これだな、これがアイシャの示してくれた虹色の壁……」

 二人は手をつないだまま、真正面にそびえる大壁面を見上げた。それは、ガラスともコンクリートとも金属とも見分けのつかぬ透き通った材質で出来た壁だった。七色に光る装飾模様が施されているが、決してそれは芸術を意識して作られた物ではない。そのことは、二人のインスピレーションが確実に感じ取っていた。

「この先に俺が居るのか? やっと俺は現実世界に戻れるんだな、エナ?」


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