偽りのシステム72

 

 ※※※


「我々は、あと約五時間ほどで第十五寄留ブラフマデージャ跡地に到着します。本当にこのような作戦に参加していても宜しいのでしょうか、ビリシャ・エリケン大佐?」

 第十八特殊任務大隊の副官を務めるユウキ・エスタロッサ中尉は、艦橋から見える大森林に目もくれす、ただひたすらに不安げに問う。

「仕方あるまいよ、エスタの坊や。〝十八番おはこ〟が生き残るすべと言ったら、こうするしか方法はねえんだ。俺たちゃ言わば、世間の倫理とかいうものから真正面から向き合えば、それ相当の厄介もんなんだ。どんなにポンコツからのポンコツな命令だろうと、生き残るためにはやらにゃならん。そうだ、これが俺たちの賢い選択というものなんだ」

 エリケン大佐は、特殊高速移動艇〝キケロ・アマンジュ〟の艦橋のど真ん中に寝ころび、鼻の穴をほじりながら答える。この男こそ、この第十八特殊任務大隊の総指揮を任された歴戦の勇士である。

「し、しかし……大佐!!」

 エスタロッサ中尉は指揮官に向き直り、その美麗な顔立ちを歪めた。

「何を言っとる、エスタ。今さらだぞ。もう一発目の命令はやっちまったんだ。駄菓子屋でお釣りがどっさり出るぐらいど派手に火薬をぶちまけたんだ。あの様子じゃあ、今後十年以上は第十三寄留跡地に犬の子一匹育つこたあねえんだぜ」

「そ、それは……」

「なあ、エスタ坊や……いや、エスタロッサ中尉よ。お前は、ガキの頃は日本に住んでたんだって言ってたよな?」

「え、ええ……。それが何か?」

「どうよ? お前さん、その頃の記憶はあるかい?」

 言われて、エスタロッサ中尉はたじろいだ。咄嗟に返す言葉が思い浮かばなかった。

「まあ、そういうことよ。俺たちチューニング手術を受けた者はな、そういうもんなんだ。そうだ、そういうことなんだよ、エスタ坊や」

 言って、エリケン大佐はむくっとその場から起き上がり、

「そういうことなんだよ……。いうなればこの俺もそうなんだ。だいぶ消え掛かっち待ってるんだよ。ガキの頃の記憶が……」



 


  

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