偽りのシステム52


 ※※※


「おい、エナ……。ここはもう、ブラフマデージャなのか?」

 正太郎は、エナ・リックバルトに目を瞑らされた。そして、一瞬にして別の空間に飛ばされていたのだ。

「まあね。これが仮想世界の良い所かしら。座標軸さえ分かってしまえば、そこまで何秒も掛からないわ。便利でしょ?」

 言ってエナはクスリと笑った。相変わらず、透き通ったあどけなさが表情に残る。

「だけどよ、これじゃあ実感がねえな。俺ァ、おまえに俺の存在を見つけてもらって以来、大分色んな状況を経験したような気がする。これが既成の冒険譚なら、観客は拍子抜けするところだぜ?」

「でも、それが現実よ。どんなカテゴリーの筋道だって、最初はゴールを見つけるまでに波乱と困難があるの。でも、そこが見つかってしまえば、それはただの方程式にしかならない」

「つまり、解の無い答えを見つけるまでが大変だって言いたいんだろう? そりゃ、理屈として分かるが……」

「だからァ、そういう議論は後回しにしてくれない? ここからが大変なんだから!!」

「ここからが大変だと? それはどういうこった?」

 正太郎は、口を尖らせてエナに言い寄った。彼は、エナの手を握ったまま、まるで彼女を抱きかかえるように絡む。

「ちょ……ちょっと近いってば!! あなた、わざとやっているでしょう!?」

 頬を真っ赤に染めて照れるエナ。正太郎は、そんな純朴なエナをからかうのが楽しくてしょうがないのだ。

「そりゃそうよ。なにせ、やっとこさ、俺の本体とのご対面なんだからな。これにテンションが上がらなくて、なににテンションが上がるのさ?」

「だからって、そうやって子供のあたしに絡むのはやめてよう! 変な誤解を受けるでしょう?」

「誤解もへったくれもあるかい! 今は何だか無性に嬉しいんだ! 今ならほっぺにチューでもしたい気分だ」

「もうっ! この女ったらし!!」

 言ってエナは、お調子に乗る彼の頬をギュッとつまんでひねり返してやった。

「痛てッ!!」


 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る