偽りのシステム53


 正太郎は、あまりの痛みについ声をあららげた。しかし、痛みで反射的に手を押さえたのは胸の辺りである。

「ちょ、ちょっと……ショウタロウ・ハザマ? そんなに大袈裟に痛がらないでよ。少しつねっただけでしょ?」

 エナはやり過ぎたと思い、眉間にしわを寄せて彼の様子を窺った。すると、

「い、いや……そうじゃなくて。俺ァ、おまえのつねった指に反応したんじゃなくて……」

「したんじゃなくて?」

「ここがよ」

 と言って、胸の真ん中あたりに手をやって、

「ここんところがよ、急に正拳突きても食らったみてえに、ボコってな感じで痛み出してよ……」

「なによそれ。いくら肉体を持たないあたしでも、そんな器用な真似は出来ないわよ。しかも、あなたみたいなゴリラ級の極厚胸板に正拳突きだなんて。こっちの指が折れちゃうわ」

 言われて正太郎は、怪訝な表情でエナを見つめる。確かに胸の真ん中あたりに強い痛みを感じた。とは言え、エナの言うことがもっともである。仮想空間の中だとは言え、エナの華奢な腕で正拳突きを食らわせれば、彼女の腕がただ事では済まない。

「何だ? 今のは何だったんだ一体……?」

 正太郎は首をかしげながら前に進んだ。

 エナは、そんな正太郎の様子を不思議そうに窺いながらも、

「早くあなたの本体のある場所に行かないと。せっかく教えてもらったんだから……」

「あ、ああ……。でもよ、その俺の身体のある場所って、ここじゃねえのか?」

「うん。大体の座標は示されてるんだけど、それがおぼろげなのよ。そこまでは情報の送り主も分かっていないみたい」

「ほう、いくら仮想空間の中でも、全てがご都合主義ってわけでもないんだな」

「そうね。そこはよく勘違いされるポイントなんだけど、いくら仮想世界だと言っても、何でもかんでも誰かの思い通りになるとは限らないわ。だって所詮は仮想世界というものは現実世界のコピーなのよ。現実世界が何もかも思い通りにならないところまで、仮想世界はコピーされているのよ」

「つまりは、ここからはアナログ探索というわけだな。まあ、それが現実か……」


 ※※※

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