偽りのシステム㊲


 大膳の頭の中には、自分の息子や娘たちの姿があった。

 彼の四人の実子は誰もが優秀であったが、その中でも飛び抜けていた一番目の息子は、ヴェルデムンドへの移殖のころに起きた政争の巻き添えになり他界した。

 以前にも、末娘の小紋を産んだことで体の弱かった妻が天へと旅立った。そんな経験を持つ彼である。始祖ペルゼデールなどというシステムに勝手に他の者の命を奪われてしまうことを知ってしまえば、それを嫌悪するのも致し方のない事である。

「これより我々は、我々に仲間する五次元人たちと共に新たな戦略の再構築を行う。先ずは、各地に配置した仲間の情報を基に分析を開始し、始祖ペルゼデールの配下とも言える浮遊戦艦の目的を突き止める」



 ※※※


「あ、あなた……まさか、小紋さんのこと……!?」

 もう一人の正太郎のしかばねを前に、エナ・リックバルトは驚愕の表情で真の正太郎に問い掛けた。すると、

「ぬわぁんちって。んなわけねえだろ、エナ。ちゃんと覚えてるよ、アイツのことを忘れるわけねえだろ」

 正太郎は、おどけて答えて見せる。

 しかし、正太郎は内心焦りを感じていた。確かに小紋のことはハッキリと覚えている。その姿かたちや声、そして彼を心の底から慕って来る愛らしさまでも。

 だが、一つだけおぼろげな所があった。それは……

(いつも小紋の隣に居た奴の顔が思い出せねえ……。年がら年中、アイツの横ですました顔して連れ添って居た奴ってどんなヤツだったっけ……)

 そんな微妙な正太郎を見てエナは、

「どうしたの? 何か気掛かりな事でも?」

「い、いいや、何でもねえ。さあ、先を急ごうぜ、エナ。このままこうしてここに留まってると、また例の攻撃が始まっちまうかもしれねえ」

「え、ええ……分かったわ」

 強引に手を引っ張られるままのエナ。彼女は、少し首を傾げたものの、正太郎に促されるまま、この空間の亀裂に足を踏み入れたのであった。


 ※※※








 

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