偽りのシステム㉒


(そう、グリゴリなのよ。あっちのあなたのサポートをしているのは!!)

(サポートだと!? サポートなんて聞こえは良いが、実のところ奴を洗脳したのはグリゴリなんだろ!?)

 正太郎は二重の衝撃を受けた。それならば納得が行く。向こう側の正太郎が、なぜ真の正太郎を憎み切っているのかを。

 グリゴリ――。

 それはまさに、真の正太郎を憎むべき権化と言っても過言ではない。大型の人工知能にしてエナ・リックバルトの育ての親。天才少女エナ・リックバルトに執心するがあまり、敵の戦略家として活躍していた正太郎に歪んだ敵愾心てきがいしんを抱き続けている。それは人にも人工知能にもなり切れない中途半端で稀有な存在。それが人工知能グリゴリである。

 彼は、先の戦乱で真の正太郎に追い詰められて以来、その意識と能力を三次元ネットワーク上に分散させた。さらにヒューマンチューニング手術を受けたサイボーグ化した人々の補助脳の中に意識を潜り込ませ、その存在を隠して生き延びて来たのである。

 そのグリゴリが、こうして表立って〝システム〟と手を組み、あからさまに正太郎に対して攻撃を仕掛けて来たのは二度目のことである。

(そうかよ、グリゴリかよ、エナ。奴なら適材適所ってわけか。この俺を追いやるために、あっちの俺を良いように洗脳する役目ってわけか!?)

 正太郎は、この状況を納得した。全ては〝システム〟である始祖ペルゼデールとグリゴリの目的の一致によるものである。

(そうね。始祖ペルゼデールは、自分では手出しが出来ないことを分かっていて、それでグリゴリに白羽の矢を当てたってことね。よくもこんなに上手な選択が出来たこと……)

(おいおい、感心している場合かよ、エナ? てえことは、奴は俺であって俺でないってこった。きっと、とことんグリゴリに人生をかき乱されて、俺を悪の権化に仕立て上げちまったんだろうよ)

(そういうことね。あのグリゴリなら当然考えられるわ。グリゴリのあの性格は、ストーカー並みの執拗さがあるもの……)



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