偽りのシステム⑳


 向こう側の正太郎の眼差しは、まるでやいばそのものであった。それは、憎しみや羨望、嫉妬と言ったネガティブな一言で表せるものではない。幸せも不幸せも全ての境遇を一瞬にして奪われた稀有な存在だけに表せられる眼光である。

「ああ、分かるぜ……。テメエのその身体全体から滲み出て来るやべえもんがな……」

 正太郎は固唾を飲んた。奴には、もう奪われるものも守れるものも何もない。あるのは、ただ目の前に居る悪の権化と刷り込まれた標的しょうたろうのみである。

「来る……!!」

 真の正太郎は肌で感じ取った。同じ存在に言葉など要らない。相通じる何かが刹那の感覚で間合いを取らせた。

 弾丸が真の正太郎の耳元を横切った。向こうの正太郎がためらいもなく撃って来たのだ。

(クッ……!! この弾道、この炸裂音は、この俺の選んだ銃と同じ……M8000グーガーか!? 好みも全く同じってわけか……!?)

 予測はしていた。白兵戦で相見あいまみえるとなった時から互角になることは必至だった。しかし、選ぶ武器まで同じ物となるとなると、勝負は長期が予想される。

「腕が同じ。考えが同じ。それで身体的能力が同じとなりゃあ、こりゃあ……」

 言って彼は物陰に隠れ込んだ。いつの間にか情景は変換されている。彼らにとって懐かしい日次百合子ひなみゆりことの思い出の場所。彼らの学びの一室である。

 弾丸が鉄パイプの椅子にかすり、それが跳ね返ってガラス窓の一枚を粉々にする。他に人影はなかった。

「よう、もう一人の俺!! こんな状況で、テメエは何も思わねえのか!? こんな感傷的ノスタルジックな場所に連れて来られても何も感じねえのか!?」

 真の正太郎は大声で問い掛ける。こうすることで、彼は反応から相手の心境や状態を図り知ろうとするのである。それが自分と同じ存在あったからとて、手を抜くことはない。

「…………」

 しかし、まるで反応はなかった。

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