偽りのシステム⑲
嘘を吹き込んででも洗脳を行って戦わせるのは、操る側としての常套手段である。彼のような野生の虎が戦う理由は、生きるための戦う理由を刷り込まれた時だけである。正太郎は、そのことを重々理解していた。
「俺ァ、正真正銘の
叫んだところで、その言葉の意味を相手は理解しない。相手の胸には届かない。
自分が帰る場所と愛するものを奪われたという理不尽さは、当の正太郎にも経験がある。だからこそ、もう一人の自分のやるせない気持ちが伝わって来る。
まして、自分と同じ姿をした存在が目の前に現れれば、
「こんな現実離れした悪夢から、早く目覚めたい!!」
そう思うのは人間の
「なあ、エナ。いくら仮想現実の中で生み出されたからって、これも実在と変わらねえんだよな?」
「ええ、そうよ。いくら仮想の世界の宇宙で生み出されたからって、それも一つの命なの。だから、あのショウタロウ・ハザマだって、あなたと一緒ということだわ。でもね、同じ顔と同じ体をした存在だからって、中身が一緒とは限らない」
「ああ、そうだよな。きっと俺を憎むための環境で育てられて来たんだろうな、アイツはよ」
「そうなんでしょうね。そうでなければ、システムがわざわざこんなことをして来る意味が無い……」
システムは、限りなく合理的に真の正太郎を葬りたいのだ。
しかし、我々人間が考えるような〝神の鉄槌〟などと言った、まるで布切れの微細な穴をピンポイントで塞ぎ切るような芸当は出来ないのだ。そこまでシステムは完全無欠ではない。
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