偽りのシステム⑰


「システムが学習したのよ。どうにもならない不具合バグに対処するには、同じ不具合バグをぶつけるしかないって……」

 エナの言っていることに、正太郎はシステムの狂気を感じ取った。システムに情は無い。システムはあくまでシステムであって、目的の為には手段を選んだりしない。誇りも尊厳もあったものではない。

「そこが、ポンコツ人工知能のグリゴリとは一線を画すところだってんだな。そうだよな、エナ? グリゴリの野郎は、どこか人間という存在に憧れを抱いていた。それは、お前という存在に惚れ込んでいた証拠だ。より人間に近くなってお前と同等以上の存在になりたがっていたんだ」

「だけど、始祖ペルゼデールというシステムは違う。始祖ペルゼデールは、人間に憧れを抱いたりなんかしない。だって、あたしたち人間なんて、システムからすれば一つのバクテリアか細菌の一種でしかないんだもの」

「細菌の一種か。その通りだな……」

「でもね、ショウタロウ・ハザマ。その細菌の一種だって、あなたのような不具合バグが発生すれば話が変わるわ。他の細菌に影響を与えて、その細菌自体が別の働きをするようになれば、システム上の狂いが伴う。システム自体には、そんな微細な一個体の細菌をピンポイントで抹消する力はない。だから、その細菌を特定するための案内役となる細菌を必要とした。そしてさらに、それをピンポイントで抹消する細菌を必要とした。それが、目の前に現れたあなたと瓜二つの存在というわけなのよ」

 これはエナの推論だった。だが、そう考える方が妥当だと正太郎は思った。でなければ、わざわざこんな回りくどいやり方をするはずがない。神のように振る舞うシステムも、如何せん万能ではないのだ。

「てえことはよ、エナ。奴は、この俺をこの世から抹消するために現れた刺客だってことで良いんだな?」


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