偽りのシステム⑱


 エナは、こくりとうなずいた。まるで、こうなることを予測していたかのように。

 目前に居るもう一人の正太郎は、まだ何も仕掛けて来なかった。きっと戸惑っているに違いない。真の正太郎はそう思った。こんな場所に、いきなり連れて来られても、自分の存在していた世界が消滅させられて、いきなり戦いに興じることが出来るほど、人間はシステムに都合良くは出来ていない。

「あいつ、きっと焦ってるんだぜ。何がなんやら訳が分からん、って感じでな」

「きっとそうね。そこが人間という存在を今ひとつ理解しきれていないシステムのおごりなのよ。だから自分では直接手が出せないの」

「でもよ、エナ。刺客にするためには、きっとやることがあるだろうぜ。前にお前を瀕死に追いやったもう一人の俺みてえにな」

 言うや、正太郎はエナに武器を要求した。エナは、この仮想現実の中ではあらゆるものを具現化できる。しかし、まだフェイズウォーカークラスの大物を具現化できるほどの力を有していない。

「飛び道具がいいかしら? それとも近接武器?」

「両方だ、エナ。出来れば小回りの利く銃と、レーザーソードを二本くれ。それなら使い易い」

「分かったわ。なら、あなたの得意とする古い拳銃と、最新式の出力の大きいレーザーソードを用意するわ」

「出来れば、長時間使用可能なやつな。きっと、長丁場になるぜ」

 正太郎は覚悟していた。相手は自分そのもの。戦いともなれば、どんな手を打って来るかも分からない。どんな能力を見せて来るかも分からない。

 しかし、自分を敵に回すことが、どれだけ厄介な事かだけはよく理解している。

「確かにアイツは戸惑っている。だが、きっとアイツが居た世界で、アイツの周りの連中はこうアイツに言い聞かせていたはずだ。これから目の前にする自分自身を倒さなければ、元の世界には戻れねえ……ってな」


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