浮遊戦艦の中で364

 

 彼らは気づいていたのだ。羽間正太郎に代表される存在が、いかにシステムにかということを。

 それは羽間正太郎に限ったことではない。システムとは、何らかの標榜のようなものがあり、それに向かって演算し続けるもの。

 だが、彼らはシステムにとっての異質な存在。計算外の異物。と判断されてしまうのもやむを得ぬところ。

 大膳もリゲルデも、あの戦乱の経験者である。それだけに、あの男の存在の異質さには感じ入るところがあった。

「所詮は、何らかの意図に沿って作られたものが〝システム〟というもの。真実を隠すのではなく……」

 リゲルデが言うと、

「何かの意図が先んじてしまうと、真実が見えなくなってしまうものなのでしょうな。たとえそれが、我々じんるいでなくとも。そう思わんかね、ジェリー・アトキンス殿?」

 大膳は、呆気に取られているジェリーに腹を押さえながら問い掛けた。

「え、ええ、まあ……。若輩の私にはよくわかりませんが、あなた方のおっしゃろうとしていることは何となく理解できます」

 すると、リゲルデはさらに腹をよじれさせて、

「何を行っておるのだ、ジェリー・アトキンス。年齢で言うのなら、貴様の方が俺たちより断然年上なはずだ。なにせ、貴様は俺たちが生まれるより先に作られた人造人間なのだからな」

「え、ええ、いかにもそれはそうですが、昔からこういう言い様もあるようです。年齢なんて、ただの数字に過ぎないと……」

 するとさらに、大膳は心得たように腹を押さえて、

「なるほど、ジェリー殿。これで私の考えが確信に変わりましたよ。つまり、あなたは私たちより断然年上だということです。なぜなら、その台詞はしわにまみれた賢者にしか言えぬものですから」

 言われた途端、ジェリーは顔を火柱のように真っ赤にさせた。彼は、人造人間であるにもかかわらず、人間以上に複雑な心境を表情で示す。

「なるほど。それはダイゼン・ナルコザワの言う通りだ。そりゃあ、傑作だ!!」

 リゲルデは、彼らしくもない高笑いをして見せた。傍らで話を伺っていたシモーヌも口に手を押さえくすくすと笑う。

 そんな折――

「大膳様、ご報告です。たった今、シュンマッハ率いる旧ペルゼデールネイションの首都、ノイマンブリッジ上空に、かの浮遊戦艦が姿を現したとのことです」


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