浮遊戦艦の中で359


 存在ならずして存在する物――

 それを聞いてリゲルデは、喉を唸らした。とんでもないことを聞いてしまったと後悔した。

(俺は今まで、なんてちっぽけなことにこだわり続けて生きて来たのだ……)

 この話が全て本当のことなのだとしたら、間違いなく今のままでは人類は滅ぼされてしまう。

 その相手が牙を生やした魔物のような実物ならまだしも、実体の無いシステムというのでは尚更困難である。

「システムというものは、存在こそすれ物体ではない。いや、物体に宿る我々の身体的な部分だったとすれば、それを破壊してしまえば果たしてその時点で死んでしまう。つまり、これに打ち克つには、その概念を別のものに置き換えるしか方法がないのです」

 大膳の目に力が宿る。

「要するに、システムのどの部分を置き換えるかだ。始祖ペルゼデールと呼ばれるシステムが、俺たち人類にどの程度の影響を及ぼしているのか、全く俺には分からん」

「だから刺激を与えるのです。多大な刺激を人類全体に与えることによってシステムに抗うのです。システムは、我々人類に強く根付いています。そんなものを取り払うには、新しい刺激を与えることによって、全く違う筋道を構築させるのです。そうでなけれな、人類は始祖ペルゼデールというシステムに翻弄されるがまま滅びの一途を辿ることでしょう」

 そこに、ジェリー・アトキンスが口をはさむ。

「何とも、システムとは厄介な物なのですね。どんなに手ごわい相手でも、明確に実態が存在すれば考えようがある。だけど、システム自体が今の人類の核たるものだとすれば、それを置き換える行為は人類にとってイチかバチかの行為にも考えられます」

「その通りだよ、ジェリー・アトキンス殿。しかし、事態は前門の虎後門の狼。いずれにせよ、不利な状況は変わらないのだ。それが出来なければ、この世界はまたシステムによって滅される」


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