浮遊戦艦の中で343


「人間以外の者? 人の営み……だと?」

 リゲルデはその瞬間、気の抜けたように〝変身〟を解いた。解いた、というよりも、自然に元の人間の姿――リゲルデ・ワイズマンに戻ってしまったのだ。

「そうです、あなたも私も人間……人類……ホモサピエンスから派生した人類以外の何ものでもありません。そうした性質、そうした生存本能の中には、他人を貶めてでも利用してでも蹴落としでも生き残ろうとするごうというものがあります。しかしそれは、あるべくした人間の営みという言葉以外に例えようがありません」

「き、貴様、よくぬけぬけと。この俺の何を分かると言うのだ! そうやってお高く留まって他人を見下して!! 許さんぞ!!」

 リゲルデは、また新融合種ネオ・ハイブリッダーたる黒い巨人の姿に変化へんげしようとするが、

「図星を突かれて、怒るのはやめておきなさい、リゲルデ・ワイズマン殿。私はあなたを責めているのではない。あわよくば肯定しているのだ。それに……」

「それに、何だ! 言ってみろ!!」

「ええ、それにここであなたがその姿で戦っても、我々には到底敵わない」

「何!? この俺が、人間の貴様たちに敵わないだと!?」

「そうです。かつての戦略家だったあなたには分かるはずです。戦いというものが力技だけではないということを」

「黙れ、このエリート官僚出身の頭でっかちが!! 貴様のように、恵まれた家柄の出身の輩に何が分かる!? この俺だって、貴様のような境遇であれば、何も人を蹴落としてまで成り上がろうとなどしていないはずだ!!」

 そこで大膳はやれやれとため息をつき、首を振った。

「なるほど。そこまで近視眼的になられたのでは、こちら側の説得も無駄のようですな。ならば、力尽くでもいい。その力で、私たちを好きなだけ蹴散らしなさい」


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