浮遊戦艦の中で309


 しかし、リゲルデの驚愕はまだ収まらない。

 この先を行く手には、それはまだ序の口の出来事でしかなかったからである。

「ミスターワイズマン。わたしの眠らされていた場所は、この通路を先にあります」

 ジェリーが、薄暗い構内を指差して先へ先へといざなおうとするが、

「この先だと? 行き止まりではないか」

 彼が通路とは言ったものの、そこはただの箱型の部屋である。そこは、大人が三、四人程度が一度に入れるぐらいの狭いスペースである。

「いえ、ここは私たちの目にはそのように見えますが、こう見えてもあらゆる場所に繋がっているのです」

「あらゆる場所に繋がっているだと?」

 それは不思議な感覚であった。

 あのガラス壁の外側から中を覗いた時には、得も言われぬほどの途轍もない広々とした空間が存在した。だが、そこを一旦入ってしまえば、手狭な箱ものが待ち受けていただけなのである。

「もしかして、これはエレベーターの一種だとでも言うのか?」

「ええ、まあ、そういうことなのかもしれませんし、そうでないのかもしれません。しかし、このスペースは我々の……いえ、少なくともわたしの目には見えない何かであらゆる場所に繋がっているといった具合なのです」

 リゲルデは、ジェリーに促されるまま箱の向こう側に足を踏み入れた。すると、

「なんだ、これは!?」

 自分の視覚情報とはまるで違うところに、自分の足が吸い込まれて行く。いや、吸い込まれていると言うよりも、なだらかな人工的通路を上ったり下りたりしているような感覚である。

「驚きますよね、ミスターワイズマン。わたしもここで足止めを食らいました。なにしろ、まるで見えている物と実際にある通路とは違うのですから。ですから、わたしはここを出る時には目をつむりました」

「そ、それで……。それで貴様は外に出られたとでも言うのか?」

「いえ、そうではありません。外に出られたのはただの偶然です。運が良かったのだと思います」

「ば、馬鹿な! それでは外に帰れんではないか!?」

「そんなことはありません。外に出ようとしたときの経路はわたしの頭の中にある程度インプットされています。それを逆に辿れば元の場所に帰れます」

「何だと!?」


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る